(1) いらないので追い払われました

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(1) いらないので追い払われました

一面に広がる緑の土地。農家の家が点々とする田舎風景。そこに、マルグリート・ホスター侯爵令嬢は居た。 都から来た輿入れの隊列。嫁入り道具を乗せた荷馬車と花嫁の乗った馬車は、結婚相手の領地に入ると止めて休憩中。 マルグリートは何日も乗って来た馬車を降りる。それを付き添いの男が手を貸した。何しろ、侍女も従者も連れて来てはいない。お嬢様が拒否なさいましたから。 彼女は見回すと両拳を握りしめ顎を上げて抗議する。付き添いの男に。 「ちょっと、約束が違うんじゃなくて?こんな話には、なってないでしょ。アグアニエベ、さ、ん、っ!」 後ろに立っていた長い銀髪の美男子は、少し後退りする。怒ってる、そうだろうけどとは分かってたのだが。この令嬢の気迫にタジタジ。 「ですが、お嬢様。事情が変わりましたので。」 「なりたくて、なったんじゃないわ。婚約破棄なんて。でもね。あの時、貴方の魔力で私の腕を動かしたわね。こんな田舎の土地の領主に嫁がせるって、どういう事よ?あの男が私を追っ払ったら終わりの約束でしょ!!」 何と、この男と密約が交わされていたのか。令嬢は怒っていた。男は、ニタニタと愛想笑い。宥めるのは簡単と思っているかのような。丸め込まれて利用されてしまうのか。 「これしか、方法は。」 「私は、あの時に約束したわ。守ってくれないのなら、許さないわよ。」 「しかし、ですねえ。」 「しかし、も。だから、も。ありませっん!契約違反の罰金を払ってもらうわ。当然でしょ?」 「契約違反の罰金?悪魔の私にですか?」 「悪魔だろうが、やる事はやりなさい!」 強い女には、巻かれろ。それが、天使のお手伝いをする悪魔の信条。言いなりになる事にしました。 痩せた長身の黒い外套の人間離れした美しい顔。その表情は、楽しんでいる。困ったふりを装って。 (これは、面白い事になりましたねえ。カンカンですよ。怒ってる顔も可愛いー。このお姫様を利用して退屈しのぎにします!くっふふー。) 悪魔のアグアニエベは、不敵に笑うのだった。その悪魔と知っての令嬢との密約とは何だったのか? アグアニエベは、揉み手。女の子を説得するのは慣れている。転生前の長期勤務社員としては、女子社員の管理も任されていたからだ。 「皆さん、若い子から熟女まで慕われてましたからねえ。モテモテだったんですよ。」 自慢したのに聞いてない。冷たいのね、貴女。でも、そういう強い女の子は大好きです。彼女は悪魔のお気に入りなのだ。
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