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(3) 契約しました
嫁入り道具を運んで来た馬車は、荷物を降ろすと受け取りと契約書にサインを受けてバタバタと帰って行った。こんな田舎に足止めされたくないのだ。
契約書とは?勿論、結婚したと証明する契約書でした。それは、マルグリートの父親に届けられるのだ。
トーマは、マルグリートの部屋に一緒に付いて来る銀髪の男を警戒しながら連れて歩いた。
何だか魔の匂いがする。魔法使いなのなら用心しなければ。気が変わったら結婚は無しにされてしまうかもしれないから。父も母も借金が無くなるから喜んでいるのだ。結婚させた息子に申し訳なく思いながら。
「アグアニエベ様は、商人なのですね。マルグリート様とは、ご親戚ですか。後見人なのでしたら。」
さりげなく、会話でサグリを入れる。どうも、この男は信用できないのだ。侯爵令嬢の後見人という身分紹介だが、怪しい。
「いいえ、この男は侯爵家とは一切の繋がりは有りません。私の後見人になっているだけですから!」
男が答えずに、令嬢が答える。まだ、怒りは治まらないようだ。困った、ご機嫌を治せるような高価な品は無い。案内する部屋も急な事で改装もする時間が無かった。
(貧乏暮らしで屋敷は幽霊屋敷の1歩手前の状態だ。お嬢様のお部屋に用意したのは、お祖母さまが使われていた離れ。お父さんと補修はやってみたけど。怒るだろうな。)
ビクビクしながら、ギシギシと音のする廊下を歩いて離れへ行く。トーマは、マルグリートの掛けた言葉に足が止まる。
「はい?結婚式は、しない?」
驚いた、聞き間違えだろうか。結婚しに来たのに、式は必要ないと言う。
「いつまで続くか分からないのですから。やっても無駄ですわ、そうでしょう?」
どうして、この令嬢は圧が強いのか。嫌だと言えない空気。とにかく、言いなりになった方が良さそうだ。強い者には従うのが世の中の生き方。
(こんな貧乏貴族にお金持ちのお嬢様が嫁入りするだけでも有り得ない話なんだ。何かの事情で都に居られなくなった可哀想なお姫様。強気でしたいだけ、やらせたいな。)
完全な同情モードの純情な結婚相手だった。トーマは都暮らしを知らない。そこに住む貴族とは縁が無かったのだ。初めて見るお姫様。まるで、遊戯施設のキャラクター。
怖いオーラはバリバリと放ってはいるが、高価なドレスを着たお人形のような美しい令嬢は輝いて見えた。眩しい!
これが、僕の奥さんになる人なんだ(X)。
これが、僕の奥さんになった人なんだ(◯)。
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