雪の下のディルク

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 私の頭は、妙に冴えていた。 ――あの大晦日の日、お母さんは何処に行ってたのか教えてくれなかった。  例えば。そう、例えばの話だ。  叔母さんに呼ばれたら、人見知りしない連夜ならなおさらほいほいついていったことだろう。それこそ、人気のないところに呼び出されて殴られるまで、自分が危害を加えられるかもしれないなんて思いもしないはずだ。  雪かきをしたおじさんのことは、私達みんながよく知っている。あの家の裏手に雪が積りやすいことも、人気がないということも。もしもそこに、殴られて半死半生の状態の男の子を放置したらどうなるだろうか?ただでさえこの地域は、夜は凍りつくほど寒くなる。ましてや、夕方にはもう吹雪になるということを予めよくわかっていた天気の専門家がそれをやったのだとしたら?  小さな子供の上に雪が降り積もるまではさほど時間もかからない。彼が生きているうちに発見される可能性は、非常に低かったのではないか。  ただでさえ、気絶する程度に殴られた傷と、転んでできた傷を見分けるのは難しそうである。それに加えて、散々つもりに積もった雪を、おじさんが一人で機械を使って雪かきをすることをわかっていた人間が犯人だったとしたら。  その殴られた痕跡さえ、うまくいけば消せるかもしれない――少なくとも、“忌々しい死体”を損壊させて、遺族を苦しめてくれるかもしれない、なんて。そんなことを考えていたとしたら。 ――お母さんは、伯母さんを嫌ってた。……憎んでると言っても過言ではない、ほどに。  あくまで状況証拠なのはわかっている。でも、動機も踏まえるとどうしてもこれが、ただの偶然だとは思えなかった。 「ああ、数珠も用意しないとね。お金もだわ。嫌ね、出費が嵩んじゃって」  ぶつぶつと呟きながら、必要なものを書きだしていく母。  私は連夜を失った悲しみ以上に今は、おぞましいものを見る恐怖が勝っていた。  本当の悪魔は。目に見える翼など、きっと生えてはいないものなのである。
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