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雪の下のディルク
「今から外に行くのはやめなさい」
外に出かける準備をしていた私に母が言ったのは、お昼を過ぎた頃だった。彼女は窓の外を見て眉をひそめている。
「今日はこの後雪になるわ。それも結構積りそうだから、危ないわよ」
「ええ……連夜君と遊ぶ約束してたのに……」
ホテルに缶詰めなんて、つまらない。私が頬を膨らませると、振り返った母は露骨に嫌な顔をした。
彼女は気象予報士をしている。彼女が“これから雪が降る”と言うからには、多分それは本当なのだろう。そして私を心配しているというのも。でも。
「あんまり、あの子と仲良くしないで。貴女にとっていいことなんか一つもないんだから」
こういう言い方をしてくる時だけ、私は母を嫌いになりそうになるのである。小学校五年生の私と、六年生の連夜。私達は従兄妹の関係だ。連夜はお母さんのお姉さんの子供で、十二歳なのにとっても博識な少年である。東京の名門小学校に通っていて、そのままエスカレーターで有名中学に行くことが決まっているらしい。それだけ聴くと、お金持ちで頭でっかちなボンボンに見えるかもしれないが、彼はその知識をひらけかして自慢したりマウントを取って来るようなタイプではない。連夜と話すのも、一緒にゲームをするのもとても面白く、お正月のたび彼に会えるのを私はいつも楽しみにしているのだった。
彼も彼で、性別の壁を感じさせないほど私に対して対等に接してくれるし、それでいて妹のように可愛がってくれていると知っている。そう、本人に何の罪もないことは、母だってよく分かっているだろう。問題は――彼の母、つまり母の姉であり私の伯母さん。彼女との姉妹中が究極的に悪いということである。
どうにも、連夜君、つまり男の子が伯母さんに生まれた時に、だいぶぎくしゃくと揉めることがあったらしいのだ。
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