過疎地域持続的発展支援特別措置法

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 しばらく行くと集落に続く唯一の道路が落石で塞がれ,先にも進めず,集落の村長と連絡を取る方法もなく途方に暮れた。車を降りて落石で塞がれた道路の写真を何枚も撮り,辛うじて繋がるスマホからメッセージとともに警察と消防に送った。  そしてすぐに峠を降り,途中の開けた土地で待ち合わせていた幼馴染の警察官と消防士を合流した。三人はクレーンのような重機のついた車に乗り込むと落石の前に戻った。穴だらけの道路では誰も喋らず,崖に落ちないように緊張しながら道路の先を見た。  現場に着くと,消防士は落石の処理に使う特殊な重機を器用に操作し,現場の岩を撤去したが,大きな岩が崖の下に落ちていく音が谷に響き渡り,集落の人たちにも聞こえているに違いなかった。  ゆっくりと山を登っていくと,突然開けた場所に出た。そこは随分と前から人がいた形跡は消え去り,廃墟のなかに薄っすらと積もる雪が崩れ落ちた残骸を覆い,残骸を隠していた。  唯一潰れていない村長の家も,郵便配達員の記憶とは違いすっかり荒れ果て,もう何年も人が住んでいないのが一目でわかった。  民家の跡地を撮影しながら見て回ると,石やコンクリートでできた家の土台は確認できるが,家があったことを確認できるものは他にはなかったが,三人は誰かに見られているような気配に包まれていた。  警察官と消防士が空を見上げて雪が深くなる前に戻ろうと提案した。季節外れの粉雪は静かに三人を包み込もうとしているようだった。  やがて耳の奥に微かにテレビから流れるスポーツ中継の音が聴こえてきたような気がしたが,誰もそのことについて口にしなかった。耳の奥に残る歓声がどこか懐かしく,また寂しくも感じた。  逃げるように消防士の運転する,重機を積んだ特殊な車で山道を下っていると,雪に混じって雲から何本もの細い糸が垂れ下がるように集落がある場所へと降りてゆき,一斉に白い煙が集落から立ち昇っているような錯覚をした。  不思議な現象に驚いた三人は,嫌な気配を感じとり,後ろを振り返らないように必死に前だけを向いて山を降りた。車は崖を避けるように(くだ)って行ったが,途中で見える山の中腹に大勢の年寄りたちが黙って立っているのが視界に入った。  郵便配達員たちは山を降りて話し合ったが,集落に誰もいなかったことをうまく説明できる自信がなく,閉ざされた集落で見た現象の説明を諦めた。闇夜に同化した真っ黒く染まった山々を見ながら,その奥にある誰もいない集落のことは,春になって雪が溶けるまで報告を先延ばしすることをお互いに決めた。  そして降り積もる雪の中に消えていく集落では,相変わらず行政に何者かがさまざまな申請をし続け,誰も管理していない口座に使い道のない税金がいつまでも振り込まれ続けた。
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