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春になり,雪の残る山肌から山菜が顔を出すと再び集落が現世へとその姿を現した。
家々は重たい雪で完全に潰されて,大きな柱が辛うじて残っていたが,そこに人がいるとは想像すらできないほどすべてが消え失せていた。
唯一,立派な造りの村長の家から細長い煙が立ち昇り,白い煙が雲とつながっているように見えた。それはまるで先祖の住む常世と現世をつなぐ細い糸のようで,糸の下で深く積もった雪が煙の熱で幻のように消えていくのが幻想的でもあった。
集落のあちこちに放置され凍った遺体は山の動物が処理し,残った部分は土が分解し跡形もなく消え去った。大きな骨は,村長が回収し時間をかけてゆっくりと診療所で粉にして畑に撒いた。
雪がとけても集落を訪れる者はおらず,唯一残った村長は,その後毎年訪れる千年に一度の寒波を一人でやり過ごし,降り積もる雪のなか,そこに集落が存在するかのように行政にさまざまな申請書を提出し続けた。
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