過疎地域持続的発展支援特別措置法

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 国勢調査も満足に行われない集落は,村長によって学校や消防施設の維持のために予算が申請され続け,毎年御国から指定口座に一定の額が振り込まれたが,それを確認する者は誰一人いなかった。  そんな誰もいなくなった集落は,何度目かの冬を越え,たった一人の老人のために多額の税金が深山に埋もれた集落の口座に振り込まれ続けたが,使い道のないお金はただただ雪だるまのように膨れ上がっていった。  秋が深まるその年は,いつも年老いた村長が定期的に(ふもと)の町に郵便物を回収に来ていたのに,ここ数ヶ月間,村長が現れることがなかった。  麓の人間は,村長が健康のためといって定期的に町に降りてきては集落の者のために肉や魚を大量に買い込む姿を見ていたが,これほど長期間姿を現さないことに不安を覚えた。  話し合いの結果,若い郵便局員が代表して集落の様子を見るついでに溜まった郵便物を届けることになった。本格的な冬が訪れると,数ヶ月間集落に近づくことができなくなるので,その前に溜まった郵便物を届けなくてはならなかった。  秋の空気が冬の寒さに飲み込まれる前に集落へ行こうと,郵便局員は準備をした。そして小さな赤い郵便局の車が集落へ続く山道に入ると,季節外れの粉雪が舞い散るなか何年も誰も使っていない穴だらけの荒れ果てた道を縫うように登って行った。  ガードレールの落ちた崖をゆっくりと通過すると,目の前に転がるいくつもの大きな岩が進路の邪魔をした。
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