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三年後。
「おめでとう!」
友達の香織がメールでなく珍しく電話してきた。
「どうしたの?」
「あら、知らないの? 鳥山由紀さん、クライミングの世界大会で一位だって、ニュースで言ってたわよ。あなたのとこの由紀ちゃんよね」
「え!? そ、そう、うちの娘よ。それはそれは…驚いて言葉が出ないわ。教えてくれてありがとう」
「素晴らしい娘さんねえ」
「ええ、まあ、そうよね…」久美子は言い淀んだ。
昭雄を見ると、昭雄も電話で話していた。
由紀とは、まだ連絡がつかない。
一段落すると、二人はお茶をすすって気持ちを落ち着かせた。
「俺達が間違っていたのかなあ」
「かしらねえ…」
そこに、固定電話が鳴った。
「ACBテレビの記者、増井と申しますが、鳥山さんのお宅でしょうか?」
「はい、そうです」
「このたびは、由紀さんが、クライミングワールドカップ世界第一位を取り、おめでとうございます。つきましては、ご両親にインタビューをさせていただきたく思いまして電話した次第です」
「…私たちは、ずっと由紀に山登りを反対してきました。インタビューを受ける資格はありません」
「でも今は反対のお気持ちはないのでしょう?」
「…はい」
「それなら、一言、娘さんにお祝いの言葉をお願いいたします」
「…わかりました」
カメラの前で緊張する二人。新聞記者など他のマスコミも来ている。
「…コホン。ええと、情けないことに、私のような者は、偉業を達成してくれて、やっと真実に気づけるのです。由紀、気づかせてくれてありがとう。そして、よくやった。由紀、ダイバーシティ、本当におめでとう。君を誇りに思う」
ニュースを見た由紀は、思わずガッツポーズして、家に電話した。
「お父さん、やっとわかってくれたんだね。うれしいよ」
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