一人娘

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「娘は結婚することも子どもを持つ未来も奪われました。私たちは孫を抱くことができませんでした」 「お父さん、まだ行方不明の段階ですので、希望を持ってください」 「…はい」 「中継を終わります。お返しします」 「はい、お疲れさまでした。以上、(さんかく)山噴火関連のニュースをお送りしました。次のニュースは…」  自宅庭でのインタビューが終わり、昭雄と久美子は肩を落として家の中に入った。    一人娘の由紀と、一週間以上連絡が取れていない。  (さんかく)山は由紀がよく登っていたお気に入りの山だ。  噴火に巻き込まれたに違いなかった。  ニュースを見た親戚から、早速電話が入った。 「本当なの? 心配ね」 「そうなの。もう眠れなくて」 「まだわからないから、気を強く持ってね」 「ええ」  久美子が受話器を置くと、昭雄も携帯で応対していた。  電話が一段落して、二人は少しでも落ち着こうとお茶を飲んだ。 「だから、山登りは反対していたんだ」 「そうね」久美子はため息交じりに答えた。  その時、玄関の方で、バタンと音が。  二人は顔を上げて、目を合わせた。  久美子が急いで様子を見に行く。 「ゆ、由紀! ああ、お父さん、由紀が帰ってきました」  久美子が叫ぶと、昭雄はドタバタと駆け寄ってきた。 「由紀! 無事だったのか。心配してたんだぞ」 「ただいまー。何、血相変えて。海外だから長いって言ったでしょ」 「海外? (さんかく)山じゃないのか?」 「もう、出発の時に言ったじゃないの。(さんかく)山はとっくに卒業したわよ。あー、疲れた。私お風呂に入るから」  見当違いに、昭雄は頭を抱え込み、久美子はヘナヘナと座り込んでしまった。 「あー、いい湯だった」 「まあ、座って。お茶でも飲みなさい。てっきり(さんかく)山に登ったものだと思ったよ。おかげで大恥かいた」 「あ、見たよニュース。何、あのインタビュー。他に言いようはないの? 今はダイバーシティの時代なの。わかる?」 「ダイバーシぐらい知っておる」 「ダイバーシ? わわ、出た。その特有の言い方。やっぱりおっさんの典型」 「父親をおっさん呼ばりするもんじゃない。とにかく、山登りは反対だからな。誰の役にも立たん」 「お父さんの言うとおり。私たちを安心させてちょうだい」 「またその話? お父さんもお母さんも心配しないで、自由に生きたらいいよ。私は私で自由に生きて、世界に挑んでんだから」  
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