雪《セ ツ》ナ イ 夜

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12月31日。 19時6分。 祖母が亡くなった。 2日前までつもっていた雪は、溶けてほとんどなくなっていた。 *** 連絡を受けたのは、18時半くらいだっただろうか。 私は、父からの電話で、祖母が危ない状態だと知った。 それから、30分後くらいにはもう…… 急逝。 事故だった。 県外で暮らしている私は、祖母と2年近く会っていなかったと思う。 もっとたくさん会いに行けばよかった。 もっとたくさん話をすればよかった。 いくら悔やんでも、もう遅いのだけれど…… ひとり暮らしをしていた祖母。 近くの道路を歩いていたところ、車とぶつかったらしい。 なぜ出かけたかは定かではないが、おそらく切れた電球を買いに行ったのではないか、と父は話していた。 事故のあと、祖母の家を訪れたが、台所の電気が点かなくなっていたという。 祖母にはもう聞くこともできないから、真相はわからないけれど。 足腰丈夫だった祖母は、元気とはいえ、転倒の危険を考え、雪がつもっている日はなるべく出かけないようにしていた。 定期的に父が祖母の家を訪れ、車で買い物に連れて行っていた。 あの日、もし雪がたくさんつもっていたら、祖母はわざわざ出かけなかっただろう。 それが、たまたま雪がほとんどなかったがために、買い物に行ってしまった。 2日前までのように、歩きづらいほど雪がつもっていたらよかったのに。 一晩待って、父に買い物を頼めばよかったのに。 こんなタラレバの話をしても、もうどうしようもないことなのはわかっているけれど…… 大雪になると、毎日雪かきやら交通に影響が出るやらで、とにかく大変なことばかり。 毎年せつない思いをたくさんする。 雪国の冬とは、そういうもの。 けれど―― うれしいはずの雪が降らない日が、かなしい日になるなんて。 雪がないことで、こんなにもせつない思いをすることになるなんて……今まで考えたこともなかった。 この時ばかりは、雪があったら……と心から思った。 *** お通夜が終わり、帰りの車の中でぼーっと外の景色を眺める。 窓から見える、静かに降りつもる雪に、私は言い表せね思いを視線に託してぶつけることしかできなかった。 かなしみが、雪とともに降りつもっていく。
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