2. 出会い

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 「あ、太郎君でいい?私の事は麗華でいいよ。」  ほわほわするものを感じて再び夢現だった僕に、彼女はそう言いました。そこで彼女に名前を呼んでもらえたと気づいた僕は、一気に顔が熱くなるのを感じました。  「な、名前で呼ばせて頂く、何て、お、おこがましい、限りです....」  忙しなく縮んだり膨らんだりする心臓のせいで頭がくらくらしそうになるのを必死で統一しながら、回らない舌で何とか言葉を出しました。僕がどうしてこんなに汗をかいているのか分からないらしい彼女はとりあえず笑いながら、  「どうして?みんな呼んでるよ?」 と言いました。こんな僕が高貴な彼女の名前を、それも呼び捨てで呼んでしまえば、漫画の世界ならすぐにいじめられてしまいます。僕みたいな存在は基本、彼女のような方は「様」を付けて呼ばせて頂くのです。  「じ、じゃあ、麗華様、と呼ばせて頂きます....」  「何それ、やだな。何かエラそうじゃん、私。」  僕の提案に、彼女は顔をしかめてしまいました。彼女の気に障ってしまったことに気づいた僕は慌てふためきました。  「ごごご、ごめんなさい!!麗華さん!!麗華さんと呼ばせて頂きます!!」  もう確実に僕はブラックリスト入りです。静まった店内に僕の声が響きました。  でもそれよりも、僕がした二つ目の提案に、彼女はとても綺麗に笑いました。  「それがいい。」  そして彼女はそう言いました。  その笑顔に見とれてしまったことは、言うまでもありません。
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