2. 出会い

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 「やっぱり太郎君、面白いわあ。」  壺の浅い御方なのでしょうか、大してセンスのあることを言った訳でもないのですが、彼女はそう言って目尻に溜まった涙を指で払いました。  「ねえ、この後暇?本は好き?」  彼女は言いました。  以前も申しました通り、僕は活字が苦手です。読む漫画はと言うと、吹き出しに空白の多いものや、ドカァンとかブォォォォとか、効果音の多いものばかりです。なので必然的に、僕は本が苦手です。  ですが、僕は思い出しました。僕が妄想だと思っているものが現実なのだとすれば、僕は本当に書店で麗華さんと会話をしたことになります。そこから彼女は、僕が本好きだと考えたのです。  さらには見たところ、麗華さんは大の本好きです。もしここで僕が「嫌い」と答えてしまえば、麗華さんはきっと傷ついてしまいます。  なので、僕は咄嗟に答えました。  「好きです。」  僕が答えると、麗華さんは柔らかく笑いました。  「じゃあこの後本屋さん行こうよ。行けばもしかすれば、欲しかった物思い出すかも知れないしね。」  実はそんなものないんですなんて言えない僕は、「行きます」と冷静に答えました。同時に講義が始まるチャイムが鳴ったので、僕の小さな声はそれにかき消されたかもしれないと一瞬不安になったのですが、麗華さんは笑って頷いてくれました。  ああ、よかった。ちゃんと聞き取って下さった。  麗華さんは耳もいいんだな。きっと聴力テスト、すっごくいい結果なんだろうな。
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