2. 出会い

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 書店に着き、麗華さんは僕がを見つけてくれようと、あれこれ聞いてくれました。でももちろん、僕にはお目当ての物などないので、ええととか、ああとか、そんなことしか言えませんでした。適当な参考書を取ればいいのですが、必要ないそれを口実作りのためだけに買うほど僕はお金持ちではありません。  いい加減いい言い訳を思いつけよって話なんですけど、もごもごしている僕に麗華さんは言いました。  「何も思い出せないんだったらさ、折角来たんだし、私のおすすめの本買っていかない?」  つまり字ばかりが紙に敷き詰められたあの分厚い書籍を意味しているのだと思いました。そもそもこうやって僕のために本を探してくれているのは、僕があの時しくじって麗華さんに嘘を言ってしまったからです。だから断る訳にもいきませんでした。    「これ、この間買って読んだの。すっごく面白かった。よかったら太郎君も読んでみて?」  僕が答えを出す前に、麗華さんは新刊コーナーに飾られていた一冊を手に取り、僕に渡してきました。やはり、それは分厚い書籍でした。それを手に取るだけで唸りそうな程です。紙ってこんなに重くなるんだってびっくりする程です。  「私が好きな作家さん。この人の表現、凄くいいの。あとこの人の世界観も。」  僕が漫画の世界に入り込むように、麗華さんもまた、この字だけの世界にのめり込んだようでした。漫画やアニメは、それらを作って下さった方々が、分かりやすく絵を介して、その世界を僕たちに見せてくれます。でも、小説というものは、その映像を自分自身で創り上げなくてはいけません。それがどうも、想像力の乏しい僕には難しいのです。
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