2. 出会い

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 しばらくの節約生活をどうするか、思考を巡らせている僕に対し、僕がその小説を買ったことが本当に嬉しかったらしく、麗華さんは帰り道、これまで以上にはしゃいだような笑顔を見せてくれました。白いその肌には夕焼けの橙色が映り、麗華さんの笑顔がより一層暖かく見えていました。  そんな可愛らしい麗華さんを見ていれば、僕はまたホワホワした気持ちになって、まあ何とかなるかって開き直ることにしました。  麗華さんと別れて自分のアパートに戻り、僕は早速その小説を開いてみようと机に向かいました。  一人暮らしを始め、さあ新しい勉学を頑張るぞと意気込んで買って貰った少し広めの勉強机の上はまるで寂しいものです。なぜなら、僕は与えられた課題をギリギリにこなす程度しか学ばないからです。心配性の母買って貰った、長時間据わっていても疲れない椅子にも、僕は一時間以上座っていたことがありません。「あの椅子、どう?」とたまに母に聞かれるのですが、もちろんそんな事実は言えません。代わりに「すっごくいい」と感情のこもらない台詞を精一杯の演技で言うのです。  そんなことはどうでもよくて、僕はその広すぎる程の勉強机の中心に、その小説を置きました。薄暗い部屋の中、卓上を照らす電気スタンドの光に包まれ、私を見てと言い出しそうな程その小説は注目を集めるようでした。その広い舞台の上で異彩を放つ小説は、僕なんかよりずっと存在感があります。  そう思うと少し哀しくなってしまいそうなので、その存在が嫌いになってしまう前に僕はようやく手をかけました。  可愛らしいピンク基調の表紙に浮かぶ文字は、「ありのままの私」。  予想するに、自分に自信のない人が暗い人生を送っていたが、それを救い出す救世主によってその人生が明るくなるといった話です。  こんな可愛らしい表紙の本は、やっぱり麗華さんにとても似合っているな。  そう思いながら、僕は表紙をめくりました。
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