2. 出会い

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 「ちょ、麗華さん、落ちついて下さい!何かお気に召さない事でもありましたか!本当にすみません!!」  とりあえず謝ることしか出来ない僕はそう言いながら、尻を床につけた状態で後ずさりしました。僕の座っていた場所から麗華さんの立ち位置までそう離れていなかったため、僕が逃げる隙も与えず麗華さんは僕の脚を捕まえました。  「今どんな気持ち?」  僕の腿上に座り込み、麗華さんは包丁を上に向けたまま変らずの真顔で僕に聞きました。麗華さんは怯える僕を見て楽しんでいるというより真剣にそう聞いているように思えました。  「...怖い、です。すみません...」  なので僕は酷い言い草に謝罪の言葉を付け足して正直に答えました。すると麗華さんはまた「そっか」と言い僕から離れました。その手から逃れられた僕は麗華さんから一ミリでも離れることに必死になり、ベッドと掃き出し窓が作る角に吸い込まれるようにすがりました。  「行っていいよ。帰りたいなら。」  明らかに怖がっている僕を見て麗華さんは出入り口までの道を空けました。でも手には包丁を持ったままです。正直半径五メートル以上を開けて大回りで麗華さんから離れたい気持ちだったのですが、そう広いわけでもないアパートの一室内ではそれも不可能です。出来るだけ離れて行こうにも、どうしたって麗華さんが突然襲える距離になってしまいます。
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