2. 出会い

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 「私、清川麗華。君と同じ大学に通ってる。君は?」  「清川麗華」さんという存在は僕にとって、画面の奥のような存在でした。手を伸ばしても触れられない。言葉も交わせない。ただその姿だけを目と脳をいっぱいに使ってとらえ、記憶する。ただ、そういう存在でした。  でも今彼女は画面の向こうから飛びだして、透明人間の僕に話しかけてくれたのです。人に見つけてもらえたということだけで泣きそうになる程嬉しいのに、相手はあの「清川麗華」さん。ここは白昼夢の世界なんだろうかと疑う程に、僕はどうしてもぼんやりとしてしまうのです。  「え、ええっと...」  「自分の名前、忘れた?」  僕が夢現(ゆめうつつ)にいると、彼女は再び顔をくしゃっとして笑いました。その言葉で僕に質問をしてくれたのだと気がつき、  「や、山田太郎です!!!」 とまた大きな声を出してしまいました。きっと今のでお店の方は僕の名前をブラックリストに記そうとしたでしょう。うるさいお客は迷惑だからです。さっき彼女に注意をしてもらったばかりなのに、再び大きな声を出した僕を彼女は笑いました。その笑う顔はキラキラとした効果が付されるような、そんな顔でした。
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