2. 出会い

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 僕がその顔に目を奪われていると、いつの間にか笑いを収めた彼女は言いました。    「君も本を買いに来たの?」  そこで自分がストーカーだったことを思い出した僕は分かりやすく動揺してしまいました。  「そ、そうです。」  でも、そんな僕に彼女は不審そうな顔を一切見せませんでした。代わりに彼女は  「何買いに来たの?」 と聞いてくれました。もちろん目的の本などなく、再び口籠もった僕は同時に嘘がばれる不安を覚えました。  「もしかして何買いに来たか忘れた?」  中々答えない僕に彼女はそう言いました。慌てている僕は適当に「参考書を」など答える余裕もなく、もごもごしている僕を彼女はまた笑いました。  「太郎君、面白いね。」  『面白い』と言ってもらえたことなど今までの人生で一度もありませんでした。何せ僕は透明人間で親しい友人もいないので、笑わせる相手もいないからです。でも彼女は僕に『面白い』と言ってくれました。その言葉が僕をこれまでにないくらい暖めてくれたのです。
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