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雨降小僧
東京を江戸と申した時分のお話。
今の岩手県に仙人峠と呼ばれる峠があり、そこには昔から『雨降小僧』という妖怪が住んでいた。
雨降小僧は雨師という雨神の弟子であり、その名の通りに天候を操り雨を自在に降らすことのできる力を持っていた。
◆
ある日の事。
仙人峠の近くの森に棲む狐が雨降小僧の元を尋ねてきた。
「明日にオラの娘の嫁入りがあるだに、雨を降らせてくんろ。この魚はその礼だ」
雨降小僧は、狐の願いを快く受け入れて約束通りに雨を降らせてやった。
さて。
狐の嫁入りには仙人峠近くの化け物たちが集って盛大なお祝いとなった。その中には雨降小僧の姿もあった。だが他の妖怪たちは紋付き袴の正装で着飾っているというのに、雨降小僧は普段のみすぼらしい恰好のままである。
「おいおい、雨降の。婚礼の席にそんな恰好はよくねえべ」
「勘弁してくれろ。こんな格好で来るのには訳があるんだ」
「どんな訳だ?」
「オイラは雨降小僧だ。晴れ着は持ってねえ」
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