それは如月、逢魔時

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 私の目の前、カウンターの向こう側でグラスを拭いている和馬さんは、完全に呆れ顔だ。 「何でうち来るんだ」 「このご時世なんで……知ったとこの方が……」  勝手知ったるサンダー&ライトニング。ステージでは、お馴染みのセッションが行われている。曲はArmed and Ready。  マイケル・シェンカー役は雄貴さんだ。  ご機嫌に、まるで息をするようにギターを弾いてる。 「個室居酒屋とかならいいだろっての」 「閉店も早いですし……」 「うちも同じだて」  このタイミングでのオミクロン株の大ブレイクとまん防発令、ないわ。 「そりゃそうなんですけど……」 「……って、結ちゃんに言ってもな。やっぱあのたーけが悪い」  和馬さんが雄貴さんに向ける「たーけ」、即ちたわけ、いわゆるバカは深い愛情がこもっていて、決して悪口ではない。けど、心底バカなやつだとは思ってるっぽい。  今と同じやりとりを、既に入店直後に雄貴さんとやってる。 「いいんですよ。ほら、美味しいお酒も呑めてるし、ケーキも」 「何で持参だよ。せめて先に言っといてくれりゃこっちで用意するっての。なあ?」
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