ホワイト・ドロップ・アウト

2/6
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ホワイトアウトは続く。  ライトアップされた白い雪に「綺麗」という感情はなかった。ひたすら同じ景色が続いて、このまま暗闇に吸い込まれてしまいそうだ。  無言で車窓を見つめる。こんなに真っ白な世界でも黄色の警戒標識ははっきりと視界に入った。飛び込んできたのは《!》の標識だ。確か「その他の危険」という標識だったと思う。  この標識は一体なんの危険を警告しているのだろう。カーナビの地図を見ても、ただ一直線が続くだけだ。一本道なので迷う心配もないし、事故になる危険性もなさそうなのに。そもそもあんな標識がここに設置されていた記憶がない。私が運転をしないから意識をしていなかっただけだろうか。  不思議に思っていると、突然夫が「あれ?」と声をあげた。 「どうしたの?」  すかさず声をかけると、彼はグッと目を凝らして前方を見つめていた。 「前の車がいきなりいなくなった」 「え?」  私も前を見てみると、確かに前を走っていた車がいなくなっていた。振り切られたのだろうか。  しかし、あんな真剣に前方をずっと見ていた夫がその車を見失うとも考えにくい。それに、彼の「いきなり」という言葉も気になる。  不思議なことはまだ続いた。カーナビの画面がいきなり真っ暗になったのだ。それに伴って音楽も一緒に消えた。 「嘘!? 壊れた!?」  指で何度も画面をタップしても、センタークラスターについている他のボタンを押しても、うんともすんとも言わなかった。  念のためスマホを見る。圏外ではあるものの、こちらのブルートゥースはちゃんと機能していた。画面が壊れたというのだろうか。こんな時に? 新年早々先行きが悪すぎではないか。 「おーい、動いてー」  機械に声をかけても意味がないことをわかりつつも、諦めきれず画面をタップする。  そんなことを繰り返しているうちに、夫が低い声で私に話しかけた。 「ねえ、ここの峠って鹿とか出る?」 「鹿? 出るよ。年がら年中」 「なら、あれって鹿……だよね?」  自信なさげな夫の視線を追う。しかし、飛び込んできた光景に私は息を呑んだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!