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「もし、標識があったとするなら……その『境界』のことを指していたのかも。まあ、あくまでも想像でしかないんだけどね」
《!》の警告標識の中には「心霊スポット」を指す物もある……昔、そんな都市伝説を聞いたことがある。根拠なんて一切ないが、あの光景を思い出すとその可能性が拭えない。
「あそこが『あの世とこの世の狭間』だったなら、私たちが見たのはやっぱり幽霊だったのかな……」
「そうだね。いろんな魂が混ざっちゃってあの形になったのかも。でも、クラクションを鳴らしたのはいい判断だったよ。そこで自分たちの存在をはっきりと証明できたんだ。それに、元々幽霊って大きな声や音に弱いしね。ありがとうね、妹のことを護ってくれて」
姉は「フフッ」と夫に笑いかける。しかし夫は照れることも笑みも浮かべることもなく、「いえ……」と会釈するだけだった。声も小さいし、明らかに元気がない。
「大丈夫? 具合悪い?」
心配になって聞いてみると、夫は「大丈夫」と首を横に振った。それでも浮かない顔をしていたので、心配になったのか姉も彼に問いかけた。
「もしかして、気になることでもある?」
夫の眉がピクリと動く。図星のようだ。
気まずそうに姉から視線を逸らす彼だが、やがて覚悟を決めたように深く深呼吸して彼女に答えた。
「気のせいかもしれないんですけど……峠を抜けてから、ずっと車が重たいんです」
「……え?」
その証言にぞくりと悪寒が走る。
「そのおかしな世界に行って壊れたのかい?」
これまで黙っていた父がたまらず口を開く。しかし、夫も渋い顔で首を傾げるだけで本人もよくわかっていないらしい。
「感覚的なものなので……上手く説明できなくて、すいません」
伏目がちに謝る夫に、姉は澄ました顔のまま首を横に振る。
「その直感ね……多分合ってるよ。ご飯食べたら、ちょっと車を見てみようか。お父さんも一緒にいい?」
姉に話を振られた父は無言で頷く。
しかし、みんな彼女の意味深な言葉が気になったので、ある程度腹ごしらえすると私たちは雪が降りしきる外へと出た。
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