天秤は真紅に傾ぐ

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 少年はまばたく。当たり前に成される行為のそのひとつは、突如として白い光を生みだした。次に少年が目を開けば白く輝く空間が広がり、色違いの白いスウェットを着た少年が佇んでいた。対照的な黒いスウェットは影のようで、異様な存在感を放つ。  鮮烈な白に、黒い少年は目を細めた。しかしココア色の大きな瞳をすぐに見開き、白い少年と向き合う。まるで鏡合わせのように同じリズムで命を刻む。ふたりは着ている服でしか見分けがつかないほどにそっくりだった。白い少年は眉尻を下げて話し出す。 「僕は君の天使。本当にそれでいいの?」 「僕は君の悪魔。もう決めたんだ」  黒い少年は口だけを動かしてそう答えた。白い少年の瞳は潤む。 「一歩踏み出せば全てが終わってしまうよ。君はただ愛されたかったんだろう? 今は苦しくても、きっといつか君を愛してくれる人が現れるよ」 「違う。そうじゃない。『僕』が欲しいのは、家族だ。父さんと母さんじゃないと、駄目なんだ」 「間違いなく、家族だったよ。それだけで十分じゃないか。思い出してごらん。僕らの愛された記憶を」
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