天秤は真紅に傾ぐ

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 白い少年の言葉と共に部屋に映し出されたのは、ありふれた誕生日の光景。苺の乗った白いホールケーキに刺さった九本のろうそくが、電気の消された部屋に灯る。それを楽しげに吹き消す少年は、幼いながらふたりとよく似ていた。品の良さそうな両親に囲まれるその時間が温かく幸福であることは、誰が見ても明らかだった。  フェードアウトし次の映像が流れる。  先ほどよりも少し成長した少年が机に向かい真剣な面持ちで勉強をしている。すると扉を叩く小気味の良い音が三度響く。開いた扉からはお盆を持った母親が顔を覗かせた。お盆には小さなふたつのおにぎりと湯気が立ちのぼるお茶が乗っている。母親は静かにそれを机に置き、薄く笑ってから部屋を出ていった。  再び映像が変わる。  透き通るような青い空に映える緑の芝生。そこを駆けるボールと選手たち。少年と父親は揃いのトリコロールのタオルを首からかけている。少年は白い壁に向かうふたりとそっくりだった。ゴールネットが揺れた瞬間、観客の感情が爆発しスタジアム自体が大きなひとつの楽器のように唸る。炎のような熱気の中、父親は顔をくしゃくしゃにして喜びを露わにした。
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