天秤は真紅に傾ぐ

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 映像は途切れ、白い壁に戻る。白い少年は首を僅かに倒し、諭すように言う。 「ほらね。君は確かに愛されているんだよ」 「知ってるさ。ちゃんと幸せだった。……でも、君だって知っているだろう?」  白い少年は一瞬目を見開いた後、すぐに視線を落とし口をつぐんだ。それを見た黒い少年は遠い目をして言葉を続ける。 「父さんと母さんの、本当に大切な人は、『僕』じゃない。顔も名前も知らない、余所の人なんだよ」 「それでも! ちゃんと幸せだった。それだけで、いいじゃないか……」  白い少年は勢いよく顔を上げたが、徐々に言葉は力を失う。黒い少年はゆっくりと目を閉じる。長い睫毛の下から大粒の涙が流れ落ちた。 「それでもいいと思ったさ。でも、耐えられなかったんだ」  白い少年は再び押し黙る。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加