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幸せな2人
葉子の全身から光が溢れ出てきた。
『進さん、私よ。葉子よ』
そこには歳を重ねてもなお、柔らかい笑顔の
亡くなった当時の葉子の姿。
「なんで?なんで?お前は3年前に…」
『尾崎さんの本性のこと、伝えてなかったから…』
「いや、え?でもどうやって?」
『天国でね!地上に戻れる薬をもらったの!期間は1週間しかないから焦ったわ〜!貴方と出会った25歳の私で登場したのよ。』
「え?待って待って、どうゆう展開?」
「じゃ入院生活1週間っていうのも…」
『そこまでコントロールできるほど優れてはいないから、そこはたまたまかな。』
「なんだよ!ずっと僕しか知らないと思ってたのに!全部知ってたのか!設定ガバガバ!」
『貴方、尾崎さんの事あきらめの悪いやつって言ってたでしょ!最初の日!』
「いろいろあの後話するの大変だったんだから!」
『喧嘩した後、両親のところに行ったとき、お嬢さんを私がお守りします!って言ってくれたわね!痺れたわ〜!』
「恥ずかしいからやめてくれぇ!」
『私、看護師さんになりたかったのだけれど、なれなくてね。でも今回看護師として話せて良かったわ』
進は咄嗟に横を向いて、涙を堪えた。少しホッとした表情で。
『実は私が誰よりも、あきらめられなかったの
よ、貴方を。許してね!いちばんのお気に入り
は、貴方のとなりよ』
暫くの沈黙、とてもとても愛らしい時間、愛おしい時間…。
葉子の表情は、いつもの柔らかな笑顔だった。
『いつも家族を支えてくれた進さん、笑わせて
くれた、頼ってくれた進さん…。生前は恥ずか
しくて、言えなかった…。
本当に伝えたい事は、その時にって貴方言ってたわよね』
「なぁに、充分過ぎるぐらい伝わっていたよ。
朝のおはようを聞いただけで、本当に安心した
からね。その一言で充分だよ」
『進さん、そろそろ入院して1週間経つわ…。
退院…おめでとう!』
「葉子さん…ありがとう…葉子さん…」
麻生進の笑顔は人生で一番輝きを放っていた。
進はゆっくりと目覚めた。
病室の窓から、葉子が見守ってくれているような、そんな気がした。
完
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