戸惑い

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戸惑い

 『おはようございます麻生さん!』そう言う と、彼女は静かに微笑んだ。えくぼの形も妻そ のものだった。「あぁ…ど、どうも」 久しぶりに変な汗が出ている。寝巻きの替えは 3セットしかない。1週間だけの入院だぞ。これ から毎朝、こんなにどきどきしなきゃならない のかな。ん?待てよ?そんな筈はない。妻は3 年前に先立って、それから僕は独り身だ。 はは…ま、まさか、そんな。落ち着けよ。僕は 自分を幾つだと思っているんだ。72だぞ。いく ら妻に似てるからって、こ、恋などするもん か…。にしてもなんだかやりづらいなぁ…。あ〜 もう人違いだよきっと。あり得ないからね。そんなこと。 とはいえ、まだまだ男を捨てたという訳ではあ るまい。姿勢を正してから、努めて柔らかい声と笑顔で言った。
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