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葉子の涙
僕たちは公園に散歩に出かけた。あの頃と違
って、僕は杖をついているし、歩くペースも遅
い。それでも君待ってくれる。僕を、待ってくれる。
「仕事には、もう慣れましたか?」それとな
く訊いてみる。
葉子は無理して笑顔を作って『ええ、大分慣れ
てはいるんですが…』何か言いたげな目でこち
らを見ている。
「ん?どうした?」
葉子の目が潤んだ。
暫くの間の沈黙は晩年の私達みたいだった。何
かを決心したような力のこもった目つきに変わる。
口をへの字に曲げて『私、結婚しなきゃいけな
いことになってしまったんです…。嫌なんで
す!恋愛をして好きになった人と結婚がしたく
て、両親に決められた結婚は…。でも私には時
間がないんです。1か月後にはもう…。あっ!ご
めんなさい。私、進さんにこんなこと話すつもりじゃ…。
葉子が初めて、『進さん』と呼んだのは、おい
おいと涙を流した時だった。
あの時もそうだったね。葉子さん。
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