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43年前
…1979年の冬。僕らが出会った年。当時君
はお見合いで知り合った、「尾崎」という男性
と結婚間近だったね。ただの友達だった僕は、
焦りながらもどこか、諦めていたな。尾崎君の
方がグイグイっと引っ張って行くようなタイプ
だったからね。まぁ僕も若かったから、張り合
って見たけれど、ダメだと思った。彼は優秀だ
ったしね。スパッと諦めも着いたね。最後はい
っそ、2人の結婚を祝福しようと決めていた。
だから、君には「結婚おめでとう!良かったじ
ゃないか!お幸せに!」なんて言ったよ。
内心はすごくショックだった。出会った時期
は彼の方が早かったけれど、何度かデートにも
行った。
近場が多かったけれど、ある時、海外
旅行、リゾート地に行こう!なんて話をしてい
たね。だけど君の両親が僕達の結婚には反対し
てた。早く結婚を決めるよう迫られてた。君の
両親もお見合い結婚だったから。それもきっと
君を思っての事だって、解ってたから特になに
も言えなかった。君も両親に本心をぶつける!
という性格ではなかったから。
でもしばらくして、公園で会った時、君はは
っきり僕に言ってくれたね。『リゾート地じゃ
なくてもいい、こうやって公園で2人で歩いて
話ができればいいの』って。びっくりしちゃっ
て。思わず、「えっ!」って言ったよ。『私に
は進さんが必要なの』って。
『自然体の貴方が好き』って。
それまでもたくさん話したけれど、更に深く深く話していったね。
暫く経ってから、僕たちが恋仲になってる事を知った尾崎君が、君の家まできてね。
そこにたまたま僕も居合わせたもんだから、もう大変だったね。その晩はほどほど疲れたよ。
その足で君は「両親を説得しに行くわよ!って」。
その時咄嗟にあの言葉が出たよ…。
尾崎君と一悶着あったことを話したら、納得してくれた。
尾崎君と僕だけで話したよ。連日連夜話し合った。お酒も一緒に飲んだよ。
また喧嘩になりかけるかなと思ったけれど、彼
も自分に自信がなかったらしく、だから早く結
婚したい。そうしたら安心できるからって。
みんなに認めてもらえるからって。
君への気持ちより、彼自身が不安だったんだね。
最後には「君はすごいよ!器の大きい人だ」って言ってくれたよ。
葉子も事の顛末をきいて、ホッとした表情を浮かべた。
でも、いま僕の目の前にいるのは、それ以前の君だ。未来を変えることなんてできないね。
このことはまだ秘密にしておくよ…。
それにしても、やっぱり君は気が付いてたん
だよね。当時僕がカッコ付けて、リゾート地に行きたいなんて言ったってこと。
僕も実はと言えば得意でもないし、特別好きで
もなかったんだよ。当時から。
『この公園がリゾート地だわ』って大きく手を
広げて、いつもは柔らかい物腰なのに、この時
ばかりは、随分と頼もしかったから、こっちが圧倒されちゃって。
その時はっきり「一緒にいたい」って本気でそ
う思ったんだ。猪俣葉子さんと一緒にいたいってね。
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