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2.酔いざましの甘露
「さかい……た、たすけて」
ここは堺の家で、青白い顔をしてソファに寝そべっているのが兵藤である。
「いい加減、自分の飲める量くらい把握しろよ」
堺はそう言いつつも、冷蔵庫から取ってきた水のペットボトルを開けてから渡してやる。二日酔いの気持ち悪さを飲み下してから、兵藤は気だるく口を開く。
「だ、だってさ……飲み会の時は早めに酔っぱらわないと、周りのテンションについていけないから……」
「そもそもお前、飲みサーに向いてないんじゃない」
「そういうなよぉ」
そう答える兵藤の顔は、昨晩の宴会の間とは比べ物にならないくらい暗い。だが、素面の兵藤は元々あまり社交的でなく、思考もマイナス気味だ。堺は、きっとサークルの他の人間は、飲み会の時の誰よりはしゃぐ兵藤しか知らないだろうなと思った。
「……俺は、サークルに賭けてるんだ」
「何を」
「青春を」
堺は思わず鼻で笑ってしまったが、兵藤の眼差しは真剣そのものだ。
「根暗で口下手な俺が友達や恋人を作るには、酒の力を借りるしかないんだ。楽しく会話したりはできるようになった……と思う。あと一押し。あと少し飲めるようになればなあ」
「それ、普通に素面で付き合えるやつと一緒にいた方が楽じゃないか?」
俺みたいな、と堺は口にはしなかった。しかし、兵藤は堺の言いたいことを汲んだようで、表情を少し和らげた。
「そうだなあ。確かに堺とは、酒飲んでなくても全然喋れるや」
ふにゃりと笑ったその笑顔は、アルコールなんかなくても、堺の胸を高鳴らせるのだ。
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