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3.夕暮れに汗をかくチューハイ
「お、堺、いいところに」
日暮れ時、大学から一番近いコンビニの前で、堺は兵藤を見つけた。今日は二人の所属する飲みサーの日ではなかったから、全くの偶然だ。
「じゃーん。水曜日にこそストロングだよな」
そう言って兵藤が広げて見せるビニール袋の中には、五百ミリリットルのストロングチューハイが六本も入っている。
「これ全部飲む気だったのか?」
堺は眉をひそめた。いくら酒飲みの兵藤とはいえ、十一パーセント(九パーセントですらない)のチューハイがぶ飲みは体に障るのではないか。
「いや? ……お前、呼び出そうと思ってた」
兵藤がへらりと笑ったのに、堺は少しだけどきりとする。何というか、そう思ってもらえるのが単純に嬉しいと思う。ただ、それを悟られたくはない、いらないプライドに、堺は自分でもうんざりしていた。
「仕方ないな。付き合おう」
堺はまず、財布から適当に掴んだ約三百円をビニール袋に入れた。それからチューハイを取り出す。
「堺、こういうとこしっかりしてるよな」
「酔うと踏み倒したくなるからな」
「真面目だよなあ」
兵藤もチューハイを取り出すと、その場でおもむろに開けた。
「いや路上で飲むなよ……」
「いいじゃんか。夕方だし、外で飲むのうまいぞ?」
兵藤は一口あおってから――なんと、堺の裾を引いた。その衝撃に堺は固まる。
「ん? お行儀いい堺くんのために、公園に行って飲もうじゃないの」
「お、おう……」
夏の夕暮れの温い風では、堺の火照る頬を冷やしきれないようだった。
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