1.ああ青春は酒精のもや

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1.ああ青春は酒精のもや

「おれの酒があ、のめねえってのかあ!」 「ああ来た。いつものやつ」  堺は溜め息をつく。その肩を抱いている酔っ払いの名前は兵藤。サークルの同期である。二人はこの大学の中でも歴史ある飲みサークルに所属していた。学生時代を酒と色恋に捧げようという志高い同士である。堺にはこれまで恋人が居たことがなかったが、恋への憧れとやる気は人一倍だった。  そして兵藤も同じような身の上である。 「なんだよお! お前も俺を無視するのか、さかいぃ」 「むしろよく付き合ってると思うぞ、俺」  今夜も永遠に続くかのような酒宴の果てに、相手を見つけた奴らから二人抜け四人抜けと偶数で消えて行った。そうして居酒屋の隅に二人は取り残される。堺と兵藤は毎回相手を見つけられず、最後は二人きりになるのだった。 「……ああ、今日も脱童貞できなかったなあ」  堺にとっては泥酔した兵藤に絡まれるまでがルーチンだった。 「なあ、さかいー。もう、おれらでやっちゃわない?」 「最終手段だな」  これも酔った兵藤がいつも言うことだ。堺はそれを善意で聞き流している。 「おれのこと、きらいなの」 「いやあ?」 「じゃあいーじゃん。童貞まもってなんになるんだよお!」 「まあ、酔いにつけこんだみたいになるから、さ」  堺はもはや涙声で言う兵藤の頭を、乱暴に撫でてやった。それから兵藤の目蓋がとろんとしてくるのを見計らって、呟く。 「本気なら素面のとき言ってくれ」  もちろん聞こえていないし、明日の兵藤はいつも通り、堺に迫ったことを覚えていないだろう。
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