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ねえじーらん叔父さん、と切り出してきたのは、少女からだった。
「あなた、叔父さんじゃないんでしょう」
「ええーオレ善良な叔父さんダヨー」
「叔父さんね、もう結構前に退院してるのよ」
「えっまじで」
意識不明なら兎も角、元気な相手の生霊とはこれいかに。
なんてこったいとぬいぐるみが絞り出す声はぷるぷる震えていた。
「悪気はなかった……ただオレとしても、急にあの時から喋れるようになって、どうすりゃ一番警戒されないかなーって急きょ考えた妥協案なわけ」
ぬいぐるみは速やかに自白した。
元々は意識があるだけの、普通(?)のぬいぐるみだったらしい。
とある家に買われて暫くのち、目の前で少女が自らに縋り付いてべそべそ泣きだしたではないか。
これはいかんと気合を入れて声かけをしていたら、本当に少女へと声が届いちゃった、らしい。
「ふっ、いたいけな幼女のハートをだまし続けた罪は重い……焼却炉にぶち込んでくれてもいいんだぜ? いや待って待ってください猶予ちょうだい」
「捨てるわけないでしょ、もう」
かつて幼かった少女は、あの頃より大きくなった手のひらでぎゅむぎゅむとぬいぐるみを揉んだ。何年も触ってきたこれは古びてきているものの、まだまだ現役として彼女のベッドを飾っている。
今更手放すつもりなんてなかったのだ。叔父の事を黙っていたのはこちらも同じだったのだから。
「ゆ、許してくれるのかい? 何年も君を欺いてきたんだぜ」
「そんなの結構前から気づいてたわよ。喋り方が叔父さんと全然違うもの」
「…………ジーザス」
「じーらん、あなたその言葉遣いどこで覚えてきたの」
「ふーむ、それは神秘の秘密ってやつだな。オレたちじーらんは皆こんな感じのトークだったし」
「うわあ」
前から気になっていた事をとうとう尋ねると、知りたくなかった事実を知ってしまった。
『やあ! ぼくらの水族館にようこそ!』と吹き出しのついた可愛いマスコットキャラの中身が全部これと思うと、ギャップがすさまじい。
大きく息を吐いて売店コーナーの想像を追いやると、彼女はじーらんを膝に抱えなおした。
「ねえ、これからも一緒にいてくれる?」
「当然だぜマイレディ、オレらズットモだろ? 綿になるまでついていくぜ」
「じーらんって結構言葉遣い古いよね」
ジーザス! と叫ぶぬいぐるみを、彼女は嬉しそうにぎゅうと抱きしめた。
それからさらに未来、すっかり大人になったとある女性の嫁入り道具として、古びたくじらのぬいぐるみが小脇に抱えられていたという。
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