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酷く静かな空間に、英雄くんの声が並んだ。僕は何も理解できなくて、そのまま上靴のつま先を見つめていた。何て言ったんだろう。
「俺はさ、太田が好きなんだ」
顔を上げると、窓の前に設置されているポールに触れながら悲しそうに微笑む英雄くんがいた。
「あのとき助けたのは助けるべきだと思ったからで、でもそれで太田が俺に懐いて。最初は友だちができたぞ、やった、くらいにしか思ってなかったんだ」
風が英雄くんの少し長すぎる髪をなびかせた。儚い横顔が僕の胸を締め付ける。
「太田、ずっと俺から離れないし、俺のことヒーローだとか勘違いしてるし。でもさ、途中からわかんなくなったんだよ、俺は本当にこれでいいのか、このままただの親友止まりでいいのか、って」
外からは少年団が活動を始めた音が聞こえてくる。僕らの時間だけが止まってしまったみたいだった。
「俺は太田のことを独り占めしたくなった。それが好きっていう感情だって気付くまでは、そんなにかからなかった。あ、これがみんなが言ってる恋ってやつなんだ、ってすぐわかった。そうか、俺は太田が好きなんだって」
英雄くんは視線を落とした。
「だからいつだって太田と一緒にいたし、ずっと遊んでた。……けど怖くもなった。太田にこの気持ち知られたらどうなるんだろうって。普通じゃないってことには気付いてたし、だったら太田には嫌われるんじゃないかなって。ヒーローだと思ってたやつがこんなやつだったなんて、太田は嫌だろうなって」
その先には、何かあるのだろうか。
「それに、嫉妬してる自分が嫌にもなった。太田はさ、いじめてくるのはいつも男子だからって女子といることが多かっただろ。それで仲良くしてるの見て、太田は俺のなのに、って思うんだよ。女子といようが男子といようが、俺はそいつらに嫉妬してたんだ。嫌になっちゃうよな」
ガシガシと無造作に頭をかいて、それから僕の方を向いた。英雄くんは震えていた。今にも泣いてしまいそうに、顔を歪めていた。
「だから、だからさ――」
何を言うよりも先に、身体が動いていた。気付いたら僕の腕の中に英雄くんがいた。胸に英雄くんの鼓動を感じた。
「僕も英雄くんが好きだよ。今までもこれからもずっと、ずうっと好きなんだよ」
背中に腕が回されるのを感じる。温かい。何年も失くしたままだった体温が、ゆっくりと戻ってくる。
「そっか……こんなに、簡単だったのか」
涙に濡れた英雄くんの声が、肩から僕の身体に広がっていく。
もう二度と離れたくなんてない。ずっと隣に、ずっとそばにいてくれるように、力いっぱい抱き締めた。
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