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旱魃によってダムの底から先祖の霊が常世から子孫の暮らす現世に現れると,限られた期間の中で夜な夜な先祖のための鎮魂祭が行われ,湖底から現れた神社に提灯が下がり,灯篭に淡い灯が静かに灯った。
満天の星空の下,笛と太鼓が鳴り響き,男も女も先祖のために舞を舞った。
それは毎日日没から朝日を迎えるまで行われ,かつての集落が息を吹き返したかのように失われた色が戻っていった。
毎夜毎夜繰り広げられる先祖への祀り事は,再びダム湖の水が増えていくまで行われたが,それまでの間は湖底に沈んだ集落は唄や踊りが朝まで続き,屋台の煙が立ち昇り,どこよりも賑やかで活気があった。
日の出を迎えると,提灯の灯りが揺らめきそれぞれの墓から微かに立ち上る線香の匂いが辺りを包み込んだ。それはまるで先祖の霊が子孫に終わりの時間を伝えるようで,子孫もまたなにも言わずに黙って片づけをして家路についた。
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