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「なぁ,婆ちゃん。隆おじちゃんが言ってたけど,おじちゃん,今年の十二月でダム湖のお墓に眠る先祖より年上になったって……」
祖母は表情を変えることなく裕司の頭に皺だらけの手を乗せると,遠くを見た。そして居間へと行くと,ふかふかの座布団の敷かれた,もう何十年もそこにいる場所に座った。
「旱魃なんてなけりゃいいのになぁ……」
「え……?」
「ダムの建設に反対した連中だよ。墓に残されてるのは。賛成派はきちんと移されたけど,ダムに反対した連中はダムの底に沈められた」
「え……?」
「あのダムの水は,遠くの町の人たちの飲み水になってるんだよ。その人たちがこの村にたくさんのお金を払ってくるから,こんな山奥の小さな村がお金持ちになったんだ」
「うん……」
「でもね……当時はそんなことは誰にもわからなかったし,先祖代々受け継いできた畑や家を自分たちの代でダムに沈めることに納得しない連中が結構多くてね」
「うん……」
「だったら,先祖代々大切にしてきた土地と共に沈めばいいだろ……ってね」
「え……?」
「雪が舞う寒い日だった……。ダムの建設について話し合うってことで役場にみんな集まって……」
「うん……」
祖母は当時の光景を思い出すかのように祖父の遺影に視線を向けた。
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