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祖母はゆっくりお茶を啜ると,饅頭を二つに割ってからさらにそれを小さく千切り,震える手で器用に口にした。
「誰かが……喰いもんに農薬を入れたんだよ……」
「え……?」
「あの日,誰も家に帰ってこなかったんで,朝になって見に行った連中が,全員が死んでるのを見つけてな……」
「うん……」
「犯人探しはしなかった……残された連中は,死んだ連中がうるさく騒ぐのを煩わしいと思っていたみたいで,食中毒かなんかで済ませたんだ。今じゃあり得ないことだけどな……昔のこんな山奥の田舎じゃ,誰もいちいち調べにも来なかった」
「そうなんだ……」
「ただ,賛成派と反対派が同じ場所の墓に入るのは気まずいだろうって言って,賛成派を国の金で造った新しい墓地に入れて,反対派を昔からある先祖の墓に入れたんだ……」
「へぇ……」
「ただ,旱魃で沈んだ墓が現れると,その年は村の年寄りがよく死ぬようになってな……それ以来,墓が現れると先祖に連れていかれないようにって鎮魂祭をやるようになったんだよ」
「そうなんだ……」
祖母はくちゃくちゃと音を立てながら饅頭を食べ,口の中に残っている饅頭をお茶で流すよつに湯呑みを啜った。
「ねぇ,婆ちゃん……その……料理に農薬を入れたのって一人じゃないよね……?」
祖母の口がぴたりと止まり,口の端についた饅頭のカスがお腹の上に落ちた。
「誰かになにか言われたのか?」
「うん……その……」
「誰が何を言ったんだ?」
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