湖底に降り積もる罪と罰

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 テレビのニュースから今年は旱魃が酷いと,日本各地のダム湖に沈んだ集落が姿を現している様子が映し出された。  裕一はリビングでお茶を飲みながら,息子と娘を抱き寄せて,幼い頃の出来事を思い出していた。  あの日,祖母が倒れ,目の前で祖父たちが祖母の手を引くなかで父親が救急車を呼んだが,病院では心筋梗塞として特別な処置をすることなく死亡が確定された。  誰もが連日の祀りで疲れきっていたが,祖母が死んだというニュースが集落に伝わると,大人たちはどこか安堵したようにも見えた。  祖母たちが犯した罪は集落全員で償い続けていたことを後になって隆おじちゃんから聞き,旱魃の度に墓が現れると老人たちが亡くなり,残された者たちは罪悪感が薄れていくと聞かされた。  長い間,降り積もるように集落に溜まっていった罪悪感が祖母の死によって消え去ると,旱魃の度に行われていた祀りも,湖に沈んだことで集落を経済的に豊かにしてくれた先祖代々伝わる土地に感謝する祭りへと変わっていった。  しかし集落に残る記録には,祖母をはじめ,祖父たちに連れて行かれた者たちの名前がすっかり消え去り,墓にも名前を残すことを許されず,その存在を記憶する者はその家族だけとなった。  罪悪感とともにん祖母たちの霊は,罰として湖のはるか底の旱魃がきても決して姿が現れない闇に葬られた。
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