地に埋もれる永遠の支配

1/9
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 深山(しんざん)に囲まれた集落を束ねる山村一族は,古くから人知れず銀鉱山を所有し,その財力としたたかさで外部の者を一切受け入れることなく江戸時代の寛永年間から安政年間まで,銀・鉛などの力をもって当時の幕府を陰で支えた。  人の手で作業するしかない時代にもかかわらず,少ない人数で驚くほど大量の銀や鉛を発掘する特殊な才をもつ山村一族は,その能力から,幕府によって守られ密かに特別な扱いを受けて地位と山を守っていた。  情報が流出することをもっとも警戒し外界との交流は一切取らず,女は子供を産む道具として里から拐ってくるか,幕府が用意した身元の分からぬ幼児を与えられ子孫を増やしていった。  しかし時代とともに銀山が廃れ,一族も衰退していくと,地域は山奥の限界集落となっていったが,かつて銀山だったころの蓄えが一族を細々と生かし続けた。  そして大正から昭和になって間もなく,ちょうどお盆のころに記録的な豪雨に見舞われた。当時,集落では一族が本家に集まり,先祖の霊を祀る儀式を厳かに行っていた。  本家の人間が八名,分家からは十五名が集まり,その他に使用人たちが十数名,正装して魚を焼き,団子と酒を祭壇に備えてお経を唱えていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!