地に埋もれる永遠の支配

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 そんな山村一族の分家でありながらお盆に本家に行かなかった華子(はなこ)は,本家が土石流に呑み込まれた災害の翌々月,昭和初期に産声(うぶごえ)をあげた。  当時,妊娠中であった母親は身体が弱く,家で伏せっていたのだが,天候が悪いこともあり本家からの呼び出しを断り夫婦揃って本家からの随分と離れた家に引き篭もっていた。  そんな華子もすくすくと育ち,三歳離れた兄と一緒に野山を駆け回って遊ぶ健康な子供だった。  よく父親が池で釣りをしているのを見に行っては池のほとりで兄と一緒に虫を採って遊んでいた。  当時,村の写真館の息子が最新のカメラの練習を兼ねて池に写真を撮りに来ており,華子も山村の本家で集合写真を撮影したり,遊んでいるところを何枚か撮られたことがあった。  カメラを向けられると華子の父親は無愛想に釣竿に視線を向け,周りにいた華子と兄は恥ずかしくなり,しゃがみ込んで父親の陰に隠れた。  しばらくして父親はカメラを向けられる度に格好つけていたと知り,写真館の名前が入った写真を額に入れて自分の部屋に飾っているのを知った。
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