18人が本棚に入れています
本棚に追加
「まさか,山村一族の人間がこの土地に戻ってくるとはな……」
市役所に勤務する年配の高槻晴彦は,住民票の発行手続きをしながらロビーで楽しそうにお喋りをする雄一と沙月を一瞥して大きなため息をついた。
「高槻さん……聞こえちゃいますよ……」
すぐ隣で業務をする年配の女性が目立つ補聴器をつけた高槻を制した。
「だってあの土地だぞ……しかも貯水池の目と鼻の先だなんて……」
「あの二人,若いし何も知らないんですよ……。山村一族といっても本家じゃないし,分家も分家,旦那さんなんてこの土地には数えるほどしか来たことないって……」
「旦那,銀行員だってなぁ。随分と若いのに転勤だって聞いたけど……よりにもよってこの土地とはなぁ……」
「山村一族だからって全員が全員,この土地のことを知ってるわけじゃないんですよ。あんなに若い二人,あの出来事は一切知らないんじゃないですかね。そもそもまだ産まれてない,古い話なんですから」
最初のコメントを投稿しよう!