地に呼び戻される

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 雄一と沙月は住民票を受け取ると,周りにいる年配の人たちの視線を感じつつ市役所をでた。沙月も不自然な視線を感じでいたが,それは見慣れない若い夫婦が転居してきたことに対する警戒心のようなものだと思っていた。 「やっぱり,田舎って排他的というか,よそ者を警戒するのかしら?」 「どうなんだろうな。まぁ,そこまで田舎ってわけじゃないし,そもそもこの土地は随分昔だけど,俺の先祖がいた土地らしいからな。ある意味,俺たちはよそ者じゃないって思うんだけど」 「そんなものかしらね……」 「まぁ,うちの親父も子供の頃に数える程度しか来たことないらしいし,親戚もいなし,墓だってないし,先祖がいた土地っていっても俺には何も関係ないからな……」  大通りを歩きながら話す二人を見た年寄りたちは呟くように『くわばら,くわばら』と手を合わせた。
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