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ようやく睡魔が雄一を襲ってくると,外の靄が薄れていき,家を取り囲む人影も消えていった。
『……苦しい……苦しい……潰される……。辛い……暗い……。ねぇ,聞こえる……? お前は継ぐ者か……?』
夢の中で,和装の年寄りたちがボソボソと耳のそばで囁いていた。雄一は黙ってその声に耳を傾けていたが,声は小さくなるばかりで,何を言っているのかうまく聞き取れなかった。
翌朝,出勤時に家を出ると薄っすらと濡れた地面に大量の足跡が残っていた。素足で指の形まで見える足跡は,家の周りを何周も回った形跡があり,その数は一人二人ではないことに驚き恐怖を感じた。
「なんだよ,これ。気持ち悪い悪戯だな!」
「え? なに? なに?」
沙月にはなにも見えていない様子で,大量の足跡が見えるのは雄一だけだった。
「え……? 沙月,もしかして,この足跡……見えない?」
「なに? なに? 野生動物? なんの足跡?」
「狸かも……でも,たぶん俺の見間違いかな……」
沙月を怖がらせたくないと思い,雄一は誤魔化すしかなかった。
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