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「やった! 今日は一緒に下校デートだね! うれしい!」
「そんな喜ぶことかな?」
「えへへ。一度してみたかったんだ。駅で待ち合わせして、セブンやイズミヤに寄ってお買い物したり、くずはモールでお食事してそのままレイトショー見に行ったり」
「ずいぶん具体的だなぁ」
「ふっふっふ、お年頃の女の子の妄想っていうのは逞しいのだよ謙太くん?」
「うれしいけど、兄妹でデートっていうのはおかしいでしょ?」
「うれしいならいいじゃない。それに、私たち義理の兄妹なんだよ?」
いつもの台詞を吐いて咲ちゃんは僕に怪しく微笑んだ。
整った顔でせつなげに目を細める。
ただそれだけで僕の胸がずきゅんどきゅんと収縮する。
この破壊力よ。
イケメンは悩み顔こそ画になる。
そんな僕の義妹は今日も義兄に密着すると甘い誘惑をしかけてきた。
「知ってる? 義理の兄妹は結婚できるんだよお兄ちゃん?」
「知ってる、知ってる。何度も聞いたから」
決め台詞の続きを言わせないように僕は彼女の胸を押す。
全身がお年頃状態な咲ちゃんだが、唯一胸だけは安心するくらいのツルペタだ。
彼女の弱点にそっと触れると、僕は忠犬属性が強めの義妹を身体から離した。
ぷっくり咲ちゃんが頬を膨らませる。
尻尾の代わりにプリーツスカートの裾を握って揺らすと、彼女はわざわざ屈んで僕を見上げて抗議してきた。
いちいちかわいいんだからもう。
けど、ここは駅前。
しかも人通りの多い夕方だ。
駅前広場でいちゃつく高校生に浴びせる視線はちょっと痛い。
ちらりと僕は辺りを見回す。
今をときめく人気アイドル――三島杏美の化粧品広告。その前にたむろしている学生の姿が見える。よく見なくても僕と同じ学校の制服だ。
顔に見覚えはないけれど、どこから噂が立つとも分からない。
心を鬼にして僕は咲ちゃんに背中を向けた。
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