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「ほら、バカなこと言ってないで暗くなる前にお家に帰ろう」
「バカなことじゃないよ。私は本気だよお兄ちゃん」
「今日はちょっと寒いからクリームシチューにしようとおもってたんだけれど」
「すぐに帰ろう、すぐ帰ろう! お兄ちゃんの手作りシチューだ! ばんざーい!」
ワンコ義妹の咲ちゃんは、そう言うと僕を健気に追ってきた。
ただし、歩くのは後ろでも前でもない。
ちゃっかり僕の隣。
追いつくなり、僕の顔を覗き込んで彼女はえへへとはにかんだ。
どこまで本気でどこまで冗談なのかもう分かんないや。
咲ちゃんがちょっとでも歩きやすいようにと僕は縁石に上がる。
底の薄いスニーカーには日中の熱が抜けた縁石がちょっと冷たい。気がつけば、もう街には冬の気配がほのかにただよっている。
カシスオレンジみたいな空を見上げて、ぼくは「ほぅ」と意味もなく息を吐いた。
「お兄ちゃん。途中でコンビニ寄ってもいいかな?」
「いいよ。何を買うの?」
「……ほら、そろそろストックが心許ないでしょ?」
そういえばそうだったな。
勉強机の棚の中を思い浮かべて僕は数勘定をする。
すると油断した僕の耳をひんやりと冷たい感触が襲った。
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