第1話 ハロー、残念なお兄ちゃん

3/9
前へ
/150ページ
次へ
「ほら、バカなこと言ってないで暗くなる前にお家に帰ろう」 「バカなことじゃないよ。私は本気だよお兄ちゃん」 「今日はちょっと寒いからクリームシチューにしようとおもってたんだけれど」 「すぐに帰ろう、すぐ帰ろう! お兄ちゃんの手作りシチューだ! ばんざーい!」  ワンコ義妹の咲ちゃんは、そう言うと僕を健気に追ってきた。  ただし、歩くのは後ろでも前でもない。  ちゃっかり僕の隣。  追いつくなり、僕の顔を覗き込んで彼女はえへへとはにかんだ。  どこまで本気でどこまで冗談なのかもう分かんないや。  咲ちゃんがちょっとでも歩きやすいようにと僕は縁石に上がる。  底の薄いスニーカーには日中の熱が抜けた縁石がちょっと冷たい。気がつけば、もう街には冬の気配がほのかにただよっている。  カシスオレンジみたいな空を見上げて、ぼくは「ほぅ」と意味もなく息を吐いた。 「お兄ちゃん。途中でコンビニ寄ってもいいかな?」 「いいよ。何を買うの?」 「……ほら、そろそろストックが心許ないでしょ?」  そういえばそうだったな。  勉強机の棚の中を思い浮かべて僕は数勘定をする。  すると油断した僕の耳をひんやりと冷たい感触が襲った。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加