第1話 ハロー、残念なお兄ちゃん

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 軽い悲鳴をあげて立ち止まり、慌てて僕は横を向く。隣を歩いている咲ちゃんが手にイヤホンを持って嬉しそうに笑っていた。 「えへへ、一緒に音楽聴きながら帰ろ?」 「なんでさ」 「あれ? そのために登ってくれたんじゃないの?」  身長高め女子の咲ちゃん。  対して、身長控えめ男子の僕。  縁石の高さで、ちょうどその視界の差――頭一個分くらい――が埋まる。  そういうつもりじゃなかったんだけれど。  まぁ、いいや。  僕は咲ちゃんのイヤホンを黙って受け取った。  下校デート中の義妹から「恋人聞き」のお誘いを断れるようなら、僕はもうちょっと彼女から扱いにくいお兄ちゃんとして警戒されてるさ。  なんてね。  2022年10月28日金曜日。  僕が兄になり、咲ちゃんが妹になり、一緒の家で暮らし始めてから三ヶ月め。  そして、親に内緒で「とある関係」を持ち始めてから二ヶ月めの帰り道。  カナル式。ゴムのついたイヤホンのヘッドを僕は右耳に押し込む。  耳に広がるのは「DECO*27」の「シンデレラ」。  共通の趣味であるVOCALID楽曲を聴きながら、僕たち兄妹は家路を急いだ。
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