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◇ ◇ ◇ ◇
2022年8月19日金曜日。
久しぶりに顔を合せた父から「紹介したい人がいる」と言われた僕は、おおいに狼狽えた。母に浮気されてから逃げるように仕事に打ち込んでいた父が、そんな人を作れたのがちょっと信じられなかったのだ。
その日のうちに梅田でお食事会。
高層ビルにあるレストラン。大阪湾が望める個室に現れたのは、記憶の中にある生母とはまるで正反対な『バリキャリ』という感じの女性だった。
それと、お嬢様学校の制服を着た美少女。
「河北咲と言います。私立精心女学院の高等部一年生です。えっと、中学まではバスケット部だったんですけど、今は何もやってません」
品よく頭を下げると目を伏せて頬を赤く染める。
隣に座っていた継母は顔をしかめていたけれど、継父の息子の挨拶と比べれば上出来だと思う。同席した男の子の心を奪ってテンパらせるくらいには、咲ちゃんの挨拶にはちゃんと魅力があった。
はじまりはそんなありふれた感じ。
「謙太くんは、高校どこ行ってるの?」
「……へ?」
「ごめん。なんか、慌ててる君が面白くって、そればっかり気になっちゃって。ぜんぜん言ってることが頭に入って来なかったんだ」
子供達を置いてきぼりに今後について話し込む両親。
そんな中、咲ちゃんから僕に話しかけてきてくれたのはありがたかった。
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