第1話 ハロー、残念なお兄ちゃん

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 間違いに気づいて顔を真っ赤にした咲ちゃんは、急に膝の上に手を置くと、なんだか申し訳なさそうな上目遣いを僕に向けてきた。 「それじゃ、謙太くんじゃなくて、謙太さんだね」 「いいよ謙太くんで。そっちの方が、僕もなんだか嬉しいし」 「……そう?」  縮まった距離がもったいなくて、僕は義妹の勘違いと気遣いを許した。  まぁ、元はといえば僕が悪いしね。  とまぁ、そんな感じで。  食事が終わる頃にはすっかりと意気投合。  むしろ両親がひくくらい場を盛り上げた僕たちは、二人の再婚に明るい見通しを与えて、その日の顔合わせを大成功に導いたのだった。  その後、父さん達が籍を入れるのに一ヶ月もかからなかった。  咲ちゃんが僕の住んでいるマンションに引っ越してくるのも。 「おじゃましまーす」 「そんな他人行儀やめようよ。これから一緒に暮らすんだから」 「……えへへ。そうだね」  顔合わせから8日後の2022年8月27日土曜日。  淡い水色のワンピースに白いキャスケット、藁編みのバッグに藍色のコンバースを着た咲ちゃんが僕の家をおとずれた。  そして彼女はそのまま僕の同居人になったのだ。  多忙な父は元から家に帰ってこない。  蓮さんも同じ。  高校生の男女が親の目を離れて二人暮らし。  ラブコメみたいな状況のできあがった瞬間だった。  もちろんヒロインは美少女。  爆発しろ僕。  以上。簡単な僕たち兄妹のなれそめである。  なれそめっていう単語が、適切なのかについては今は考えないことにする。
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