第1話 ハロー、残念なお兄ちゃん

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「僕はどっちでもいいよ。咲ちゃんが好きな方にしなよ」 「うーん、そうだなぁ。じゃぁ、形の似ているストロベリーかな?」 「かたちがにてるとかやめて」 「どっちでもいいって言ったじゃない。女々しいって言われない、そういうの?」  某歌謡曲のポーズを決める咲ちゃん。  文句を言いながらノリノリだ。お客さんがいないからって踊っちゃだめだよ。  そんなお茶目な妹の手から、僕はピンク色の箱をひょいと奪い取る。  それから――シルバーの箔押しになった商品名を見つめて眉をしかめた。 『剛力ストロベリーうすうすMAX0.02』  なんかゴテゴテに要素を足しすぎて頭悪くなったような商品だな。  かろうじて「それ」だとは分かるけれども。  僕が手にしているのは他でもない。  親密なお年頃の男女に必要なアイテム――『コンドーム』だった。  それもちょっとお高め、プレミア感で夜を盛り上げるタイプの。  お目当てのものとはこれのこと。  僕と咲ちゃんは、家の前のコンビニにコンドームを買うために立ち寄っていた。  SEXをするためではない。 「それにほら。丈夫な奴の方が、お兄ちゃんが一人でするとき破れにくいし」 「僕のことはそんなに気にしないでよ」 「気にするよ。サキュバスの義妹のためにシコシコ頑張ってくれるお兄ちゃんを、私はとてもありがたく思っているんだからね」 「咲ちゃん、ここお外だから」  義妹に新鮮な『食事』を提供するためである。  ぼかした用語がなんなのか、追及するような野暮はやめてほしい。  そう。  僕の義妹はこんなですけれど「サキュバス」なんですよ。  「シンデレラ」でも「ヴァンパイア」でも「アニマル」でもなく、ね。 「どうせ出すなら、お兄ちゃんには気持ちよくいっぱい出してほしいの。道具も、場所も、おかずも、いいものを使って欲しいのよ」 「ちゅうもんのおおいさきゅばすだなぁ」 「えへへ! だって『食事』は美味しい方がいいもの!」  残された「チョコレート」フレーバーのコンドームを棚に戻すと、咲ちゃんは僕の手からピンクの箱を取り戻す。扇情的な色をした箱に頬ずりをして、こてりと首を傾げると、彼女は小悪魔っぽい笑顔を僕に向けた。
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