夏萌片 先輩と冷汁

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さてと、駄々っ子を風呂に浸からせている間に幾らか料理を考えてみよう。 最近は少しずつ熱くなっているし口当たりのいいさっぱりとしたものが欲しくなる。 となれば刺身やお吸い物と言ったものになるがそれだけでは味気がない。 (それなりに旨味がありつつあっさりとした料理、何があるかな) 悩んでも答えはなかなか出てこない、そんなときは誰かしらの知恵を借りるのが一番だ。 何でも世の中にはあちこちの料理を食べ歩きそれらの内容を本にして売る人間もいるらしい。 大分金がかかるからやれるのはごく一握りの人間だろうが、彼らの残した作り方はともすればこちらでも再現できるようなものだった。 (さてと、この中に何かありませんかね) パラパラと紙面をめくっていくとその中に面白い記述があった。 ≪遥か西の地、かつては日向と呼ばれた宮崎の郷土料理。冷汁に迫る≫ 見れば魚の切り身を潰したなめろうという料理と合わせて冷たい味噌汁を温かいご飯にかけていただく料理らしい。 (鯵ならこの前安く売ってるところあったしそこで仕入れて、残りも簡単そうだしこれにするか) のんびりと風呂に浸かっているだろう小鳥遊先輩に鯵だけ買ってくることを伝えて足早に市場へと急ぐ。 「はいらっしゃいらっしゃい、安いよ新鮮な魚が安いよ!」 声を張り上げて宣伝している店主を見つけると籠の上で並んでいる鯵を指さして代金を支払った。 「お、お嬢ちゃん。いい目してんねぇ。おっかさん用かい?」 「いえ、小鳥遊さんのお家でいただくようです、それでは」 それだけ言うと鰺を手にそそくさと帰りだす。 その際の店主の目が少しだけ気になったが気にも留めずに走って帰ることにした。
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