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初恋
こんな事を言ったら君に「頭おかしい?」「イカれてる?」と言われそうなんだけど…俺は…小学生の頃から…君の事が好きだったんだ。
嘘じゃなくて本当に。
でも最初の出会いは君にとっては最悪。
もっとも俺が学校ではいつもお山の大将状態で調子こいていて、君は俺とは違う保育園だったから君の事知らなくて…教室に飾られていた花瓶が風に煽られたカーテンで倒れて水がこぼれて、皆んながガキ特有の大騒ぎをしていた時に、君は黙って席を立って雑巾を直ぐに持ってきて片付けだしたんだ。
今までそんな風に直ぐに颯爽と動く女子を俺は…見た事がなかった。
こういう時って大体キャーキャー騒いでうるさい奴らが大人しい人に指図して片付けさせる様な所ばかり見てきた。
まぁ…自分もそうだったんだけどさ。
だから…スッと立ち上がり何も言わずに雑巾を持って直ぐに片付け出す様な君の凛とした聡明さに驚いて思わず…
「お前は手を出すな!あっちへ行け!!」
と言ってしまった。
君は泣きそうな顔をして教室を出て行ったんだ。
けれど君はその日にあったことをきちんと両親に言うタイプみたいで…翌日俺は担任と自分の両親から叱られて君に謝ったよね。君は一応許してくれたけど、その後は俺と話さないといけない時は目を合わさない様にして、もの凄く警戒していた顔は未だに忘れられないよ。
そして2年後、高学年で2年連続で君と一緒のクラスになった。その頃の君は出会った頃と比べると随分と可愛くなっていて頭も良くて、スタイルを維持するために努力もしていると聞いた。
人伝いに君の夢が医療関係の仕事について、人の役に立つ事だと聞いた。
俺、びっくりしたんだ。小学生で将来の夢や目標が決まって居るって!?唖然としたよ。それからの俺はと言うと、先ず両親に学習塾へ通わせてくれと言った。
「頭、大丈夫か?」
と両親に言われて終わった。普段から素行が悪かったせいだなと思い、だったら!と習っていたサッカーに真剣に打ち込むことにしたんだ。
だって、凄い頑張ったら・・・プロサッカーチームに入れるかもしれないだろ!?って、男の友人たちに言ったら皆黙って居たよ。
「頭いかれたのか?とうとう・・・。」とまで言われた。
けれど君は笑わないで真剣に聞いてくれた。
「凄い!素敵な夢!叶うといいね!頑張って!」
素直に友人として君は喜んでくれた。
だけどこの夢の根本的な動機が君だって言ったらきっとドン引きすると思う。
君はいつも夢に向かってとても真っ直ぐで、休み時間も勉強して…児童会や、皆んなが嫌がる仕事もきちんと取り組んで…そんな君には尊敬しかなかった。
あの頃、俺も…君に追いつきたくて必死だったんだ。
キーンコーンカーンコーン〜♪
朝から中庭を息も絶え絶えに走る男子生徒二人。
今にも遅刻しそうな勢いだ。
「やっべ!今日も遅刻だよ!!」
「大体、部室で朝練終わった後にグラビア読みふけんなよ!!陽斗!!」
「あーっ!!!チャイムが鳴り終わるまでに教室へ入らないと今日こそ放課後に反省文を書かされる!!」
河崎陽斗(かわさき ひさと)
只今中学2年生。サッカー部所属の元気な男子生徒だ。
元気過ぎて問題も起こしたりしてしまう問題児。
ただ、顔だけはイケメンだ。
「大体!悠斗だって一緒になってグラビア見ていたじゃないか!!」
鈴木悠人(すずき ゆうと)
陽斗の友人。保育園からの腐れ縁。陽斗の厄介ごとにいつも一緒に巻き込まれてくれる?いい友人。野球部所属で将来の夢はプロ野球選手。
今朝も仲良く部室から2年昇降口まで全力ダッシュ中である。
昇降口に入った瞬間、これから来る地獄を知らせるかの様にチャイムが止まった。
「はい。遅刻。残念ね。」
風紀委員の女子生徒が書類に遅刻者2名の名前を記入しながら言った。
「おい!世那!オマケしろ!」
陽斗は女子生徒に詰め寄る。
「ダメよ。今学期だけで遅刻5回中、お情けで2回も見逃してあげてるのよ?しかも2年始まってまだ2ヶ月…」
「お願い!世那様、神様、仏様!!助けて!!」
悠人も昔からの友達じゃないか!?と目を潤ませ頼むが取り合って貰えず…
「さすがに無理よ。」
と、一言で片付けられる。
立花世那(たちばな せな)。
陽斗と悠人の小学生時代からの友人。最初は二人と仲が悪かったが、話すうちに少しずつ仲良くなった。現在では陽斗と悠人に頼られている。努力型秀才。明るくて友人達からも頼りにされている女子。将来は医療関係の職業に就くことが目標。その為目下努力中。
実は陽斗は、世那の事が小学生時代から好きである。
一方世那は、陽斗の事は小学生時代から変態でヤバい奴としか思っていない。
『河崎、鈴木、職員室。』
『いやだぁ~!!』
廊下に二人の声が断末魔の叫びの如くこだまする。
「うるさい!!河崎!鈴木!早く来い!!」
風紀担当の教師が鬼の形相でやって来て二人は職員室へ回収されて行った。
「お前らなぁ〜、朝の会に間に合う様に顧問も朝練終わって居るだろ?何で遅刻するんだよ?」
担任は二人の顔を交互に見てため息を吐き、反省文用原稿用紙が入っている棚から二人の為に用紙を出した。
「うぁーっ!!やだーっ!!先生!何とかして!?」
陽斗は担任に目を潤ませ懇願するが「無理です。」と一言言われ、二人の顔はハニワ状態になり、震える手で原稿を渋々受け取った。
「来週頭に持って来い。」
『はあ!?』
二人は声を揃えて叫ぶ。
「はぁ!?じゃない!!あと、今日はもうお前らの家にも連絡入れるからな。」
「そんな!!やめて!!」
陽斗は母親からの小言がうるさくなる!と半泣きで担任に家にだけは…と頼んだが、ものの見事にスルーされた。
「河崎、お前プロサッカー選手になりたいから隣の市の私立高校のサッカーの特待狙ってるんだろ?遅刻はマズイぞ。遅刻、早退、欠席、提出物、授業態度、学校行事やボランティアの活動状況等全部審査対象だぞ!!鈴木も!!お前もプロ狙いで野球で河崎と同じ高校狙ってるんだろ!?お前らいくら部活の成績が良くても、普段の内申がダメなら特待も推薦も無理だからな!!」
担任はもう少し自覚を持てと二人を朝から説教し、教室へ戻した。
「陽斗ー!悠人ー!また遅刻かよ。」
二人がとぼとぼ歩いていると面白おかしく声をかける生徒。
木村奏多(きむら かなた)。
陽斗、悠人の保育園時代からの腐れ縁仲間。家が病院経営のお坊ちゃま。親は医師。陽斗とは家がご近所で幼馴染。ジュニアユースのサッカースクールも陽斗と一緒に通っている。
もちろん奏多も将来の夢は医師よりサッカー選手だ。
「陽斗ががっつりエロ本読み耽っていてさ!それで遅く…いだっ!!殴んな!!」
悠人が悠然と話すのでイラッとして陽斗は悠人の頭をパシッと叩いた。
「お前が朝からそんなウソつくからだろ!」
「エロ本はいい過ぎだけど、ガチでグラビア見てたじゃん!!」
悠人は横暴だ!!と叫ぶ。
「お前ら…どっちにしてもそう言う理由だったのか…。なぁ、陽斗くーん。世那さん知ってんの?」
奏多はニヤリとして企むように陽斗を見る。
「世那に言うなよ…。100%汚い物見るような目で…軽蔑の眼差しで見られる…。」
「どうしよっかなぁ〜。」
「奏多!!」
周りの生徒がビックリするような大声で叫ぶ。
「わかったよ…言わない。…でもまぁ、そもそもお前と世那じゃ釣り合わねーけどな。あっちは学年でも秀才に入る生徒、しかも児童会に入れば先生から会長に指名され、中学では次期生徒会役員候補。しかも会長候補。見た目も品行方正なまあまあ美人。お前は…サッカーとグラビア雑誌しか興味ない下ネタ大好きど変態ときた。」
奏多は呆れた顔をして陽斗を眺める。
「ど変態は余分だ…」
「けどさぁ、世那って小学校の時から颯人の事が好きだよな?今はわからんけど。なぁ、ひかりー、世那ってまだ颯人の事好きなん?」
奏多は隣の席に座っている女子生徒に話しかける。
「…あんた達には言わない!それに、私も小学校以来聞いていないから知らない!」
渡部ひかり(わたなべ)。
世那の小学生時代からの友人。陽斗達とは保育園から一緒の同じく腐れ縁(陽斗、奏多とは家が近く幼馴染)。賑やかい性格ではっきりズケズケ言うので顔は可愛いが男の子達から引かれている。
「結局知らないのかよ。陽斗の恋が…」
奏多はひかりに教えてくれと言うがひかりは絶対知っていても言わないが、知らないからどうしようもないと言いスルーした。
「てかさぁ、むしろ付き合ってるんじゃないの?」
悠人が笑いながら言うと…
ガシャン!!
笑いながらそんな話をしていると、急に物が倒れる大きな音がして、奏多達が振り向くと陽斗が眉間にシワを寄せ、机を蹴り倒していた。
「陽斗!!机蹴るなよ!!倒すなよ!!お前ほんとに特待ヤバくなるぞ!!」
悠人達は陽斗の机を起こして本人を宥める。
友人たちは陽斗の突然キレるそういう所を幼い頃からとても心配していた。
「あのさ、陽斗。世那…あんたみたいにそうやって物に当たったり、暴君状態になる奴は…選ぶ基準にもならないって言っていたわよ?」
ひかりは呆れて教科書を拾いながら世那が言っていた事を陽斗に教えた。
陽斗は「説教はいらねーよ!!」と捨て台詞を吐き、イライラしながら入口扉に八つ当たりして教室を出て行き、3階の外渡り廊下へ向かう。
普段ここは誰も来なくてサボるには最適だ。陽斗はイライラすると誰も来ない外渡り廊下で一人で落ち着くまで過ごす。小さな頃からイライラすると物に当たったり、人にあたったり、最悪教師と揉めて暴れ出す事があった。
小学校の頃はそれをよく担任や学年主任の教師に叱られたりして両親からもよく注意された。
中学へ上がったばかりの年は学校側から要注意生徒のフラグを立てられ、振り分けられたクラスでは友人が1人も居なかった。
クラスに友人が居なかったのもあり、1年間大人しく過ごさざるを得ず、問題も起こさず何とか1年生を終えた。
2年生になり悠人や奏多達とやっと同じクラスになったが、高校進学の事もあり大人しくしている。
が、イライラする事もあり、暴れて問題を起こすくらいならば教室を出ていくというこれ以上目をつけられない安全策を本人なりにあみ出した。
世那が同級生の颯人の事が好きなのは小学生時代から有名で、陽斗も重々承知していた。
そもそも颯人に世那が颯人の事を好きだと本人に言ってしまった張本人だ。
それ以来、世那は好きな人等の話を全くしなくなり、余計に情報が取れなくなった。正直あの時の事は失敗したと心底思っている。
「何やってんだよな…俺…。」
渡り廊下に寝そべり空を眺めると…綺麗な青空と共に世那の顔が見える。
「何やってんのよ?」
世那は呆れた顔をしながら陽斗の顔を覗き込み、陽斗のびっくりした顔が可笑しくてつい笑いながら聞く。
「お前こそ何してんだよ?秀才がサボりか?」
そんな事を言いつつも、突然世那が現れ、心臓の鼓動が聞こえそうな程心拍数は上がり、陽斗はドキドキしてしまう。
「私は第三資料室から社会の先生に頼まれた資料を運び中。本当は放課に言ってくれないとね。ほんとにあの社会の先生には困ったもんね。この今の時間の授業内容が抜けちゃう。…ってまぁ、塾で補えばいいから良いんだけどね!」
世那はそう言って満面の笑みで笑う。
陽斗は立ち上がり、世那が持っている資料をひょいっと持った。
「え?」
「重いだろ?どうせ隣のクラスだし、持ってやるよ。」
「そんな、いいよ。悪いし。それに持たせてるみたい。」
「いいんだよ!俺が持ちたいの。」
陽斗がぶっきらぼうに言うと「…ありがとう。」と世那は少し恥ずかしそうに笑って言ったが、陽斗はこのまま時間が止まれ!止まってくれ!と節に願う。
「ねぇ…朝、ごめんね。」
世那は陽斗が反省文確定なのを分かっていたのもあり謝る。
「ほんとにな。まぁでも自業自得だから…いいよ。素晴らしい反省文を書いてやるよ。」
「何それ?」
世那は吹き出して笑い、陽斗に朗らかな笑顔を向ける。
「先生が涙流して感動するようなものを書くんだよ。」
「ねぇ、書けたら見せてよ。」
「どうしよっかなぁ?」
二人は他愛もない話をしながら教室へ向かった。
「なぁ、悠人、あれ。」
奏多は授業中だったが、前の席に座っている悠人の背中をつついた。
「何だよ、奏多。喋ってると叱られるぞ。」
「上、渡り見てみろよ。」
「はあ?」
悠人と奏多は上の渡り廊下に嬉しそうに笑う陽斗と頬を少し赤く染めた世那を確認した。
「…時間の問題か?」
「颯人次第だろ?」
「いや陽斗次第だろ?」
二人はそう言いながら笑顔で陽斗と世那の姿を見守った。
「こら、河崎。サボるな。そんなに俺の数学が嫌いか?」
一限目の数学教師が陽斗の性格を把握した上で上手く注意した。
「遅れてすみませんでした。ちょっと腹痛くて。」
陽斗はそう言って席に座るが、その顔は朝怒った顔とはかけ離れ、穏やで幸せそうな笑顔をしていた。
夕方、部活時間
「陽斗、今からチーム内試合やるからお前3年に混ざって入って。」
「はい!」
3年生グループに混ざって陽斗は練習試合をする事になった。
夏に大会がある為今日から毎日の様に練習だ。
「陽斗、凄いな。3年のチームで試合に参加出来て。」
突然後ろから声をかけられる。
「颯人・・・まぁな。俺Jリーガーになるのが夢だから。」
「やっぱり高校は隣の市の私立高校受けるのか?」
野村颯人(のむら はやと)。
陽斗、悠人、奏多、ひかりの保育園時代からの同じく腐れ縁仲間。世那の小学校時代からの思い人。陽斗からしてみたら恋でもサッカーでもライバルである。
「あぁ。その為に頑張っているし。それに、将来はプロサッカー選手になりたいんだ。」
陽斗は将来の目標を言う。
「県内のチーム?」
「ああ、出来れば。好きな女の子から離れたく無い。」
陽斗はカマをかけてみる。
「そっか…まぁ、お互い頑張ろうぜ。」
颯人はそう言って顔色も変えず2年チームへ戻って行った。
「ケッ」
陽斗は颯人の背中に向かってべーっと舌を出し、忌々しいと思いながら颯人の背中を見送る。
試合が始まり、陽斗はミッドフィルター位置についた。
「ねぇ、世那。サッカー部試合やってる。颯人居るんじゃない?」
部活の時間ひかりが世那に声を掛けてきた。
「んー?」
世那は美術部だ。ひかりは弓道だが、練習の合間にたまに世那が居る美術部へ遊びに来る。
世那はグラウンドに目をやると、颯人はベンチにおり、試合には陽斗が3年生と一緒に出ていた。
「今、陽斗が出てるよ?颯人は…ベンチ。」
そう答え、課題のバラの絵に集中する。
「ねぇ、世那さぁ…颯人の事まだ好きなの?今朝3階の渡りに陽斗と居たじゃん?何か笑顔が嬉しそうで楽しそうだったから…陽斗に惹かれ始めてるのかな?って…それに髪型があんたの好きなKーPOP歌手のマンネラインのあの人と一緒。」
ひかりは世那の様子を伺いながら探る様に朝の話をする。
「んー…髪型関係ないでしょ・・・。どうかな?陽斗とはこの関係が崩れてほしくないって思ってる…もし付き合って…って、ねぇ、陽斗の事は友達としてしか見てないし、本当にいい友達だと思ってるよ?まぁ変態だけど…。だから今の関係を大切にしたいのはある。颯人は…全然私の事興味ないよ?顔見ても話してもくれないし。てか、アミと付き合ってるじゃん?だから事実上失恋しました。」
世那は知らなかった?とくすくす笑いながらひかりに話す。
「うそ!?アミと?!」
ひかりはびっくりして目を見開く。
「うん。手を繋いで一緒にいる所…映画館で見たの…。だから失恋したなぁって。」
世那はそう言ってまたキャンバスに向かいまた絵を描き始めた。
「長かったよね?片想い期間。」
「うん…小2からだから…5年?ふふ。馬鹿みたいよね?言う勇気も無くて。だからもうすっぱり諦めよう!って。」
「仲間で失恋パーティーするか!!」
ひかりは笑顔で言った。
「いいね。ありがとう。」
そう言って世那は笑った。
陽斗は3年との試合が終わり、今は颯人が2年チームで試合をしていた。
颯人の試合を見ていると、美術部の窓から世那が絵を描きながら試合を遠巻きに見ているのに気付いた。
心がザワつく。
(あいつなんか見ないで俺を見て欲しい・・・)
と思うがそんな事は言えず、陽斗はため息が出る。
「浮かない顔してんな。」
悠人が笑いながら陽斗に話しかけて来た。
「はぁ?ほっとけよ。てかお前いいの?練習?」
陽斗は呆れた顔をして悠人を見る。
「陽斗、お前今朝3階の渡りに世那と居ただろ?」
悠人は陽斗の隣に腰を下ろした。
「皆んなで見てたのかよ…悪趣味だな…。」
陽斗は毒づく。
「そりゃ…学年の秀才女子と学年の中でも選りすぐりのド変態問題児が一緒に居たら、目立つだろ?」
悠人は指を差して顔を真っ赤にしてひーひー言いながら笑う。
「奏多もひかりも…お前もさぁ人の事ド変態って…失礼だろ?お前ら?」
「まぁまぁ。変態はともかく…そういえば陽斗、いいかげん世那に告らないの?」
悠人は探るように陽斗の顔を見て様子を伺う。
「……言わないかな…って!何で俺が世那の事好きな事になってるんだよ!?」
「…あのさぁ、見てりゃわかるの…陽斗さぁ世那にだけ優しいんだよ。他の女子には塩対応だけど、世那だけは特別って感じが出てるよ?」
陽斗は悠人の顔を見て真っ赤になって頭を抱えて下を向いた。
「そんなつもりなかったんだけど…そう見えていたとは…迂闊だった…。」
「いいな。」
「何が?」
「アオハルだよな。」
悠人はニコニコして美術室に居る世那をチラッと見る。
「それは…皆恋していたらそうじゃねーの?」
陽斗は一般論を話す。
「え!?陽斗の口からその様なお言葉が出て来るなんて!僕はびっくりだ!!」
悠人は更にニコニコして冷やかす様に言い、陽斗の脇腹を突く。
「やめろよ!イタイ!!」
「はいはいごめんよ。でもさぁ、ウカウカしていたら…世那を誰かに持ってかれちゃうよ?さぁ俺は練習に戻るわ。野球の特待取らないと。じゃな。」
悠人は野球部の練習スペースへ走って去って行った。
誰にも取られたく無い。
(世那は俺のものだ…)
陽斗は心の中でそう呟いた。
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